空気質を意識する時代へ
空気質を考えよう
健康に暮らしていくために、運動や体に摂取する食べ物や飲み物などに気を配る人は多いと思います。新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけに、空気が健康にもたらす悪影響の深刻さも広く知られるようになりました。
空気中には目に見えない様々な汚染物質が浮遊していて、その中で私たちは呼吸しています。人が1日に摂取するものの中で最も多いのが空気であり、空気の状態によっては人体への影響が懸念されています。
死因で急増する肺がん
厚生労働省の調査によると、近年、日本における死因の最上位である「がん」において、その発症部位に変化が見られます。従来、最大の死因であった胃がんはピロリ菌の除去の普及などで減少し、肝臓がんも肝炎ウイルスの治療で減り始めています。その一方で、急増しているのが肺がん。気管を含め、呼吸器系疾患が最大の生命リスクになっています。
もちろん、喫煙は肺がんの危険因子の1つですが、国立がん研究センターの調べによると、「喫煙以外では、職業的ばく露(アスベスト・ラドン・ヒ素・クロロメチルエーテル・クロム酸・ニッケルなどの有害化学物質にさらされている)や大気汚染(特にPM2.5による汚染)、家族に肺がんにかかった人がいる、年齢が高いことなどが発生のリスクを高めると考えられる」と大気汚染についても、その危険因子として取り上げられているのは注意が必要です。
【悪性新生物<腫瘍>の主な部位別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移】
(平成30年(2018)人口動態統計月報年計(概数)の概況 /厚生労働省)
PM2.5による大気汚染
PM2.5とは、大気中に浮遊している2.5μ㎡(1μ㎡は1㎜の千分の1)以下の小さな粒子のことで、従来から環境基準を定めて対策を進めてきた浮遊粒子状物質(SPM:10μ㎡以下の粒子)よりも小さな粒子です。PM2.5.は、粒子の大きさが非常に小さいため、肺の奥深くにまで入り込みやすく、ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系疾患や循環器系疾患などのリスクを上昇させると考えられます。特に呼吸器系や循環器系の病気をもつ人、お年寄りや子どもなどは影響を受けやすいと考えられるので、注意が必要です。
【PMの大きさ(人髪や海岸細砂)との比較(概念図)】
【人の呼吸器と粒子の沈着領域(概念図)】
(出典:微小粒子状物質PM2.5に関する情報/環境省)
環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」スマートフォン用サイト
全国の大気汚染状況について、24時間、情報提供しているサイトです。大気汚染測定結果(時間値)と 光化学オキシダント注意報・警報発令情報の最新1週間のデータを 地図でみることができます。
室内空気汚染
先に述べたように、人が1日に摂取するものの中で最も多いのが空気です。中でも、室内の空気が一番多いと言われています。人が一生の中で摂取する物質の重量比は、食べ物や飲み物が7~8%であるのに対し、室内空気は57%も占めています。
近年、住宅の性能向上により住宅の気密性が高くなっています。気密性の向上は、室温が外に漏れにくくなる半面、部屋の中で生じる空気や湿気等がたまりやすくなり、それが「室内空気汚染」となります。それを摂取する事により、人の健康に様々な影響が及んでしまいます。
【室内空気汚染の種類と人体への影響】
物質・成分 | 発生源 | 人体への影響 |
化学物質 | 家具・塗料・芳香剤・消臭剤・殺虫剤 | シックハウス症候群
目・のど・鼻に刺激、頭痛、めまい、吐き気、呼吸困難、精神的な疲れ、無気力 |
ウイルス | - | インフルエンザ・ノロウイルス等に感染 |
ハウスダスト | 外からの花粉・PM2.5・土砂埃
カビやダニの死骸やフン・タバコの煙 服や食べ物のクズ・人間やペットの毛 フケ・畳や紙の繊維くず |
喘息等の呼吸器系・アレルギ |
二酸化炭素 | 人体・燃焼機器・たばこ | 息切れ・脈拍数増加・神経痛 |
ニオイ | 人体・キッチン・トイレ・たばこ | 不快感 |
水蒸気 | 人体・調理・洗濯・入浴・洗面・燃焼機器 | 喘息等の呼吸器系・アレルギー |
その他
一酸化炭素 硫黄酸化物 窒素酸化物 |
燃焼機器・たばこ | 中毒・神経痛・喘息等の呼吸器系 |
室内の空気汚染対策に大切な換気計画
室内の空気汚染対策には、計画的な換気が欠かせません。換気の目的とは「新鮮な外気を取り入れ、室内の汚れた空気を入れ換えること」です。適切な換気を行うことで、燃焼器具や建材等から発生する有害な化学物質が排出され、湿気によるカビやダニの発生を防ぐことができます。しかし、この空気の採り入れ方を誤ると、室内に外の汚れた空気が充満してしまう結果となり、希望する効果が得られません。また、いくら排気用の換気扇を運転して、汚れた空気を追い出そうとしても、外から空気が入ってこなければ、うまく排気できません。
【換気設備に必要な6つの性能】
1. 新鮮な空気を取り込むと同時に、外から有害な物質の侵入を阻止する 2. 室内空気(室内の有害な物質)を排出する 3. 気流を生み出し循環することにより、ウイルスや臭いを抑制し空気のよどみをなくす 4. 湿度管理ができる(夏季の多湿抑制と冬期の過乾燥防止) 5. 換気による室内の熱ロスを抑える 6. 換気設備のメンテナンス・維持が容易にできる |
室内に新鮮な空気の採り入れが重要なことは言うまでもありませんが、換気による湿度管理は私たちの健康にとって重要な意味をもっています。
湿度が60%を超えると、カビやダニが発生しやすくなり、特に冬場は、窓ガラスや北側の壁、押入れ等が結露しやすく、結露した水が原因でカビが生えることがあります。カビやダニは気管支ぜん息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患の原因となりますので、室内の湿度を60%以下に保つことが大切です。
逆に湿度が低すぎると、のどや気管支の粘膜が乾燥し、のどを痛めたり、風邪のウイルスが体内に侵入しやすくなります。また、インフルエンザ等のウイルスを含む飛沫核の安定性が高くなり、感染力を強めて(インフルエンザウイルスが活性化)しまいます。
このように、換気を行いながら、湿度状況に応じて適切な加湿や除湿を行い、室内の湿度を40%~60%の範囲内に保つことがとても大切です。
良質な室内空気質を維持するために
室内空気質を良質に保つには、計画的な換気と湿度・温度管理が必要です。しかし、良質な空気環境を生み出す機械でも、そのメンテナンスを怠ってしまえば、逆にそれが健康被害をもたらしてしまうことも考えられます。
例えば、換気システムで外気の取り入れ側に設置されているフィルターには、花粉・埃・虫・PM2.5などの汚れが付着し、定期的な清掃を行わないと目詰まりを起こしてしまいます。もしフィルターが目詰まりしていることに気づかず、1年以上も放置したならば、換気量は激減し、水蒸気やにおいが室内に溜まり、結露やカビの発生が気になるようになってしまいます。
また、湿度を適切に整える除湿器・加湿器、快適な温度に維持してくれるエアコンも、適切な維持管理を行わないと、機械内部に繁殖した細菌やカビが、吹き出された空気と共に室内に飛び散り、皮膚炎などのアレルギー症状や過敏性肺炎を引き起こす原因になってしまうこともあります。
フィルター類やタンクなどは取扱説明書の記載に従い、定期的なメンテナンスを行うことが良好な室内空気質を維持するためには重要です。
【フィルターボックスのフィルター交換】
(マルシチホーム家づくり通信「concierge 2020・2021年 年末年始号」掲載)