「湿度」を意識して快適に 暮らす
私たちが暮らす名古屋周辺部は、日本のじめじめした暑さの代表エリアと言っても過言ではありません。
高温多湿な時期、特に気を付けたいのが熱中症です。太陽が照り付ける屋外で熱中症が起きるイメージがありますが、室内でも注意が必要です。実は、消防庁の調査によると、2020年6月から9月の期間に、熱中症で救急搬送された方のうち、屋外(9.4%)を大きく上回る4割以上(43.4%)が住居で発症しています。気温が高いと体温も上がり、湿度が高いと汗が蒸発せず体温が下がりにくくなるために、熱中症のリスクが高まります。そのため、室内の温度・湿度を意識的にコントロールすることは、熱中症のリスクを減らし、快適に暮らすためには必要不可欠となります。
また、夏だけでなく、冬においても、室内の温度・湿度を意識する必要があります。部屋間温度差によるヒートショックだけでなく、同じ室内の上下温度差も健康に影響をもたらします。
また、湿度が40%を下回ると、目・肌・喉に乾燥を感じるだけでなく、インフルエンザウイルスなどのウイルスも活発に活動するため、健康を害しかねません。そのため、1年を通して、温度だけでなく、湿度にも気を付ける必要があります。
「快適」な状態とは
室内の温熱環境における「快適」とは、暑さ寒さを気にすることなく過ごせる状態のことを言います。次に快適さを考える上で、知っておきたいのが、人の体温調節がどのように行われて
いるかです。
人は皮膚表面の毛細血管の血液量をコントロールして皮膚の温度を変化させています。そうすることで、人体からの放熱量をコントロールし、深部体温を一定に保つ、暑くなると血液を回して冷やすという生理学的機能もあります。この血流で体温を調整できる範囲が快適であると感じる範囲であり、それより暑くなると発汗を促し、汗の蒸発による気化熱によって体温を下げようとします。また、寒くなると体を温めようとふるえがおきます。ふるえが起きることで、代謝量が高まり、熱が発生するという仕組みです。
これらの反応は、人にとっては余計な作業であり、ストレスを感じる「不快」な状態と言えます。
湿度は快適さに大きくかかわる
人が体温調節する際、環境側と人間側の2つの要素が影響します。
【環境側の要素】
①温度:温度計で示される値(気温)
②湿度:空気中の水分量
③輻射熱:壁・天井・床などから直接伝わる熱のこと
④気流:空気の動き
【人間側の要素】
⑤着衣量:衣服の着用量
⑥活動量:身体から発生する熱量
この6つの要素を複合して、快適さを「PMV(平均予想温冷感申告)」という指標で表すことができ、中でも湿度は重要視されています。
また、熱中症情報に活用されている「WBGT(暑さ指数)」という指標があります。これは、人体と外気との熱のやり取りに注目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい ①気温(温度) ②湿度 ③輻射熱(周辺の熱環境)の3つを取り入れています。
WBGTを計測するための気温・湿度・輻射熱は、1:7:2の割合で求められ、特に湿度が大きく影響しています。
部屋を暖めると湿度は下がる
天気予報をはじめ、私たちの日常生活においても「湿度」は身近なものとなっています。実は、湿度には「相対湿度」と「絶対湿度」の2種類があります。よく耳にする湿度とは「相対湿度」のことであり、空気中に水蒸気がどれくらい含まれているかという水分の割合を示すものです。もう少し詳しく説明すると、空気中には気温ごとに水蒸気を含むことができる量の限界が決まっており、その限界までのうち何%含んでいるかを示しています。
一方、「絶対湿度」とは、空気中に水蒸気がどれくらい含まれているかという水分の量を示しています。
空気1㎥中に何g含まれるかを表すものは「g/㎥」、空気1㎏中に何g含まれるかを表すものは「g/㎏」、空気1㎏中に何㎏含まれるかを表すものは「㎏/㎏」というように、絶対湿度は3つの単位で表されます。
下の図より、空気中の水蒸気の量は変わっていない(絶対湿度は一定)が、気温の変化によって、内包できる水蒸気の割合が変わる(相対湿度は変動)ことがお分かりいただけると思います。
そのため、快適さを考える上で大切なのは、親しみのある「相対湿度」ではなく、「絶対湿度」となります。
快適な範囲とは
熱環境を考える上で基礎となるのは「湿り空気線図」です。下の図の中にはオレンジの線と青い線が示されていますが、これはASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)が規定している夏、冬それぞれの快適範囲です(夏と冬で快適範囲が異なるのは、着衣量の差によるもの)。
図を見ると、夏も冬も絶対湿度が0.0012㎏/㎏のところで、快適範囲が区切られています。対して、夏も冬も絶対湿度の下限値は相対湿度0%、絶対湿度0.000㎏/㎏まで快適範囲に入っています。実は、長時間このような乾燥空間で過ごすことは非常に不快なのですが、数時間程度であれば、人は乾燥度合いの差を判別できないという実験結果に基づいたものとなっています。
健康的に過ごすためには、湿度は40%から60%の間を保つようにと言われます(湿り空気線図のピンクで塗られた範囲)。しかし、空気が乾燥する冬場においては、水分量を0.0012㎏/㎏まで上げることは実際には難しいため、室温20℃、絶対湿度0.007 ㎏/㎏、相対湿度48%程度を目安に、加湿器等で空気中の水分量を補い、蒸し暑い夏場にはエアコンのドライ運転をうまく活用して、空気中の水分量を55%程度に下げることが快適に過ごすコツとなります。
(マルシチホーム家づくり通信「concierge 2022年 盛夏号」掲載)