(3)『“健康住宅”のウソ・ホント』 ~序章 カビの発生により、家と人の健康を著しく損ねるのは健康住宅でない証~(P18~25)
当社代表取締役 杉山義博の「家づくりの想い」が1冊の本となり、2018年7月に幻冬舎より発売されました。その中身を少しずつご紹介させていただきます。(amazonからもお求めいただけます)
~序章~ 健康住宅はウソだらけ!? “家” に殺される日本人の現実
カビの発生により、家と人の健康を著しく損ねるのは健康住宅でない証
そもそも、昔から日本の家は冬には寒く、夏は暑いのが当たり前でした。
鎌倉時代の法師・吉田兼好は、『徒然草』で「家の作りやうは、夏を旨むねとすべし」と記しています。日本の夏は高温多湿で、ジメジメした蒸し暑さです。ひどい暑さで家の土台や柱などが腐らないようにするために、古来より日本人は床を高くして窓を大きくとり、間取りは風通しを第一に考えてつくられてきました。法師のいうように、家のつくりは夏に合わせるべきであり、逆に冬の寒さはひたすら我慢すべきだということが当然のこととされてきたのです。
日本古来の茅かや葺ぶ き屋根の住まいを見ると、遮熱効果のある屋根と気化熱冷却効果で、夏の蒸し暑さや湿気などを防ぎ、かつ室温を下げる風通しのいい構造になっています。また、風通しをよくすることは、家に使われている木材をカビや木材を腐らせる「腐ふきゆう朽菌」から防ぐための知恵でもありました。
そして冬は、断熱効果の高い屋根で放射冷却を防ぎ、採暖で過ごすというのが古くからの伝統でした。つまり、輻射熱をたくみに利用し、寝具や着衣の量を季節ごとに変えるウォームビズの生活を確立していたのです。
そんな、季節に応じて衣替えするだけの日本の家づくりに革命的な変化をもたらしたのが、高気密・高断熱住宅です。
今からおよそ70年前、復興の真っ只中にあった戦後の日本は住まいを増産。とにかく雨風をしのげればよく、すき間だらけの家がほとんどでした。当時は断熱材などありませんから、夏は暑く冬は寒い「エネルギー垂れ流し住宅」というべきものでした。
その後1970年代に原油価格が高騰してオイルショックと称された経済混乱が起き、日本は省エネ社会の実現に向けて取り組みを始めました。断熱が重視され、ようやく日本の住宅にも、省エネルギー効果を期待してグラスウールなどの断熱材が使われるようになります。グラスウールはガラスの短繊維を綿状にしたもので、価格が安いだけでなく簡単に施工できることから、現在も多くの家づくりに用いられています。
これらの断熱材によって開口部の高断熱化・気密化が進み、省エネかつ断熱性能が向上した「冬暖かくて夏涼しい家」がつくられるようになってきました。
しかし、高気密・高断熱住宅が一般的に普及した一方で、従来では考えられなかった問題が発生するようになりました。トラブルの一つが、換気不足による結露の発生です。
先ほど述べたように、昔の日本の家はすき間風が多かったので、何もしなくても室内の空気はすぐに入れ替わっていました(圧力差換気)。しかし、高気密化してすき間がなくなり、かつ換気システムが不十分で空気の入れ替わりが悪くなると、室内で発生した水蒸気や人の呼吸で発生する水蒸気が行き場をなくし、家の中に湿気がたまりやすくなります。そして室内に少しでも温度差ができれば、その部分に結露が発生しやすくなってしまったのです。
結露とは、水蒸気を含んだ空気が露点温度より冷えることによって発生する現象です。例えば、自動販売機で買った冷えたペットボトル入りの飲みものをバッグに入れてしばらくすると、ペットボトルに水滴がたくさんついて、バッグの中が濡れることがあります。これが結露です。
暖かい空気は豊富な水分を含むことができますが、だんだん温度が下がって空気が冷えると、水分は空気の中から水になって出てきます。この現象が家の中で起こると、暖かい空気が窓や壁、木材に触れて冷やされ、結露になって水滴が付着する状態となるのです。
カビは、結露によって生じる濡れてジメジメした場所が大好きです。風通しが悪くて湿度が高い場所は、カビの格好の繁殖場所になります。風呂場や洗面所、キッチンの水回り周辺のほか、性能の悪い窓や押し入れなどにも発生しやすくなります。
また、エアコンで冷房や除湿運転をしているとエアコンの内部や冷風があたる壁面などは湿気だらけで濡れた状態になり、結露しやすくなります。エアコンの内部にカビが繁殖すると、部屋中にカビの胞子が飛び散る原因になってしまいます。
≪結露によるカビは家のいたるところに発生する≫
【浴室の天井に生えたカビ】
【家具(引き出しの裏)に生えたカビ】
窓や壁、押し入れなどに起こる結露を「表面結露」といいますが、壁の中に起こる「内部結露」もあります。
水蒸気が壁の中で水滴に変わる(内部結露)と、それを壁の中にある断熱材が吸い取って、カビの発生につながり、木が腐る原因となります。
断熱材の中でも特によく使われているグラスウールは、吸水率が高いため、水を吸うと黒カビ発生の原因になりやすいので、取り扱いや施工上で結露発生防止策が必要です。
家の天井が黒くなっていてカビくさいので壁をはがしてみると、グラスウールが湿気を吸い、濡れてしまったことでカビが発生していたというのを、よく見受けます。
それだけでなく、内部結露は木材の腐食や金属のサビの原因になって、シロアリの発生を招きやすくなり、家の耐久性を著しく損ねてしまいます。
カビは、一般的には無害なのですが、体調によっては健康にも多大な影響を及ぼします。カビによる健康被害で非常に多いのが、カビの胞子がアレルギーの原因になるぜんそくやアレルギー性鼻炎です。
アレルギー性鼻炎の発生は、アレルゲン(アレルギーの原因物質)の量に関係します。
部屋の中にカビが増殖していて、その胞子が常に室内を漂っている状態であれば、カビがアレルゲンになってぜんそくやアレルギー性鼻炎になる可能性は非常に高くなります。
なお、カビが目に見える状態で室内に存在するということは、実は周囲に相当な量のカビが飛んでいて、広く行き渡っている証拠で、健康には非常によくない状態です。普通の家なら、ハウスダスト(ホコリ)1グラムあたり数十万個の胞子が存在しており、多い家になると1億個を超えることがあります。
生まれたばかりでまだ免疫力の弱い赤ちゃんや子ども、主婦や高齢者は、1日の多くの時間を室内で過ごすことになります。室内がカビの胞子で汚染されている状況では、家で過ごしているだけで、ぜんそくやアレルギー性鼻炎のリスクにさらされてしまうのです。
そして家族の健康を支える存在であるお母さんも、不健康な家でずっと家事や育児をしていては身体が弱り、副鼻腔や肺の中でカビが増殖してしまい、精神的にも参ってしまうでしょう。
近年では、毎年夏になると風邪のような症状が出て咳をくり返す「夏型過敏性肺炎」が問題になっています。
夏型過敏性肺炎は、病院でも単なる夏風邪だと誤診されやすいのですが、原因はカビの一種である「トリコスポロン」です。トリコスポロンは湿気を好み、いたる所に潜んでいるため、そんな家の中で生活し続けると、肺が委縮して呼吸困難に陥り、命にかかわることさえあります。
夏型過敏性肺炎の原因であるトリコスポロンは、湿り気のあるエアコン内部に増殖しやすい特徴があり、不潔な水道の蛇口にも多く潜んでいます。
エアコンをつけるたびにトリコスポロンの胞子が飛び散るので、体は常にカビアレルゲンにさらされ、ずっと症状に悩まされることになるのです。